「特になし、の<特に>」~元公務員講師のコラム~

我々は「言葉」で生きています。「言葉」を学び、「言葉」を使います。
法律も外国語も国語の読解や他の科目、学問も、「言葉」なしには表せません。
今日は「言葉」の大切さを教えてくれた、上司のエピソードです。

公務員=役人、「役」の「人」と書いて、役人。公務員にとって、ポストはある意味、その人の「全て」です。例えば、中島係長なら、「係長」または「中島係長」と呼ばずに、「中島さん」と呼んでしまうと、組織においては失礼です。(注:外務省では、若手の係長をわざわざ係長と呼ぶ文化は私のいた当時はなかったです。あくまで例として)。

私が人事課にいたのは、体調面を配慮された「名ばかり人事課」で、人事課にいらっしゃる人は、非常に優秀です。私の上司の一人も、非常に優秀で慕われている上司です。
その上司にある日、「中島君、総務課から来たあの文書、どう処理してくれたかな?」というやり取りがありました。

総務課と人事課は同じ大臣官房(注:大臣直属の組織の元締め、人事課が人を見て、組織のまとめやあれやこれやを総務課が見る)に所属しています。総務課と人事課は密接な関係にあり、相互間で文書のやり取りはしょっちゅう行われます。その文書も恒常的な何と言うことはない、係長の私が便宜上見たことにしても構わないような、些細な日常的な文書でした。
ということで、私としては「はい、特になし、と回答しておきました」と答えました。

次の上司の言葉にびっくりしました。
「特になしの<特に>って、どういうこと?」。
私はうろたえながら、「いや、取り立てて何もなかったので、特になし、と回答したのです」というような旨の応答を、やっとの思いでしました。

公務員の仕事は数字では表せません。民間企業は数字、利益、売り上げ、ノルマという形でやることが、はっきり数量化されます。公務員は数字が使えない分、「言葉」で戦うのです。かつての通産省と郵政省が、「情報通信」か「情報・通信」かで、ひたすらもめたというのは、よく知られた話です。わずかの「・」一文字で、争うのです。それで、権益なり権限なり規制なりが決まってしまうからです。
その上司には「言葉」の大切さを教えてもらいました。

そういう場合には、「何もない、と書くものだ」というのが、上司の答えなのだったのかな、と今の段階では納得しています。
私のブログが、皆様に読んでもらえるのも、数多の上司のご指導ご鞭撻のおかげです。
ありがとうございました。

試験前に緊張したら、感謝の念を持つことにしましょう。何だっていいんです。今日晴れだとか、無事受験場に来れたとか、この時代に平和な日本に生まれてよかったとか。
緊張は負のこちらが押されている心の動きです。感謝は正のこちらから押す心の動きです。
緊張を押し返しましょう。

 

【中島講師 プロフィール】
94年7月外務I種最終合格。国家I種経済職も1次合格していたが、外務I種合格により辞退。
外務省は4年勤務、アラビア語研修を命ぜられ、中近東第1課、エジプト大使館に勤務。諸事情により任期途中で日本に戻り人事課等に勤務。
2001年より公務員試験講師。延べ2400回の授業、24000人の学生に講義。
主な著作:「受験ジャーナル直前対策ブック 暗記科目の語呂合わせカード」、「語呂合わせで急所をチェック 公務員試験」(文芸社)

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