「イギリスの独特さ(人文科学・社会科学よもやま話) 後編」~元公務員講師のコラム~

まったりしたイギリスの歴史の流れのなかで、唯一の例外は17世紀です。1642年清教徒革命(ヒーロー世に「1642」出るクロムウェル)、1688年名誉革命(広場は「1688」歓声、名誉革命)、2回の市民革命が起こった激動の時代です。この激動にもかかわらず、なぜ国家権力は存続し続けるか、という問いに答えたのが、ホッブズ・ロック(イギリス人)、ルソー(フランス人)の社会契約説です。
ホッブズは清教徒革命から王政復古(革命を1回したのに、国王にもう1回権力が戻る)の人だったので、絶対王政(国王が絶対君主)を擁護します。一方、ロックは名誉革命の人だったので、絶対王政ではなく、間接民主主義、イギリスの代議制を支持します。

そして18世紀産業革命(経済の機械化)を達成し、代議制・責任内閣制(ウォルポール)を確立します。「国王は君臨すれども統治せず」です。名誉革命は、血が流れなかったので名誉なことで、名誉革命と言います。前の国王は亡命して、新しい国王がオランダから来るのですが、英語がわかりません。それで君臨するけど、統治はしない、となったのです。
19世紀は大英帝国は絶好調で、政治的には議院内閣制の下に統治は安定し、経済的にも豊かです。人間は恵まれている境遇では、自分たちの豊かさの意味を考えるようになります。幸せとはどういうことだろうか?、それを追求するのが、ベンサムとJ.S.ミルの功利主義です。

ただ20世紀に入るくらいになると、大英帝国もさすがに落ち目になります。経済面で、米・独に追いつかれてしまいます。そこで、満州のロシアを巡って利害関係が一致する日本と同盟を結びます。1902年「遠(1)く(9)を(0)に(2)」らんで日英同盟。それまで、大英帝国に外交・同盟は不要でした。政経とも圧倒的に強かったからです。いわゆる「光栄ある孤立」です。しかし、最初に同盟国に選ばれたのが日本だったのです。
これは海洋の自由を重んじる英国と、同じく領土が小さく海洋の通商の自由が死活的に重要な日本との、シー・パワー(海洋勢力)の同盟と言えます。ロシア・ドイツ等は、ランド・パワー(大陸勢力)です。シー・パワーとランド・パワーの争いと世界史を読み替えることもできます。冷戦もシー・パワー(日米安保、NATO)とランド・パワー(ソ連・中国)の争いと読むこともできます。

現在のEU離脱も、ヨーロッパに対するイギリスの独特さという文脈で捉えることが可能です。もともとEUは独仏伊、ベネルクス三国がオリジナルメンバーで、イギリスは原加盟国ではないのです。
独仏には、「ヨーロッパでは戦争はもう起こさせない」という欧州協調の思いが強くあります。イギリスはその意識は希薄です。もともと欧州統合への熱量が、英と独仏では違います。

まさか、と思われたイギリスのEU離脱ですが、ありえない話ではないということも、言えると思います。

各科目で分断されるので、イギリスについてこれだけ語る機会は授業ではないのですが、まとめてみるとこんな感じになりました。
皆さんは、イメージ掴むようにして下さい。

 


【中島講師 プロフィール】
94年7月外務I種最終合格。国家I種経済職も1次合格していたが、外務I種合格により辞退。
外務省は4年勤務、アラビア語研修を命ぜられ、中近東第1課、エジプト大使館に勤務。諸事情により任期途中で日本に戻り人事課等に勤務。
2001年より公務員試験講師。延べ2400回の授業、24000人の学生に講義。
主な著作:「受験ジャーナル直前対策ブック 暗記科目の語呂合わせカード」、「語呂合わせで急所をチェック 公務員試験」(文芸社)

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