「どんなとき、どんなことでも、平均点」~元公務員講師のコラム~

今回は私の経験談の話をしましょう。

1995年5月下旬、私は中近東第1課に配属されました。
中近東第1課の部屋に同期と共に入りました。

私はすぐその部屋から出て行かなければなりませんでした。
当時、ヨルダンのハッサン皇太子(当時)が来日し、東京に在住しており、私は皇太子の宿舎のホテルの一室の連絡室に詰めることを命ぜられたのでした。

緊張しない私が緊張の極限で向かった先は、まさに外交の最前線でした。
年長の大人たちが高速で大声で話す、叫ぶ、日本語で、英語で、アラビア語で。
怒鳴られる、黒板に課の同僚の名前を書き取るよう命ぜられ、漢字を書き間違う。
挙げ句の果ては、上司のスーツを取り違えて、自分が上司の上着を着ている始末。

緊張していました。
端から見ても、私が緊張しているのがわかったのでしょう。
課のNo,2であり、連絡室を仕切っていた上司が、見るに見かねて、こう言いました。

「中島君よう、君は今まで試験の世界にいたから、100点満点を目指していただろう。でもなあ、実務は平均点でいいんだよ。でも、その代わり、どんなとき、どんなことでも、平均点を取らなければならない。それが公務員というものだ」。

これは金言でした。

この言葉が功を奏したのか、それからは「何となくやっていけそう」と思うことができて、肩の力が抜けて、余計なプレッシャーが消えて、「平均点、平均点」と言い聞かせながら、仕事をしました。

初日に連絡室に泊まり込んだら、シャワーしてるときに、ヨルダン側のカウンターパートが来る等の顛末がありましたが、どうかこうか3~4日くらいの皇太子の東京滞在を切り抜けることができました。

公務員には同業他社という概念がありません。大所高所で仕事ができます。競争相手がいないので、100点満点を取らなくても、他社に抜かれることはありえません。

民間の会社は100点満点を出さないと、アダムスミスの言う「神の見えざる手」に淘汰されて、市場から消え去るのみです。
その代わり、公務員は、「どんなとき」「どんなこと」でも事を尽くさなければいけません。

24時間365日、「前例のない」「想定外」という言い訳は許されません。「平均点」が必要です。「赤点」はダメです。日本国民の公務に対する期待が高いからです。「全体の奉仕者(憲法15条2項)」だからです。

公務員試験の範囲が日本一幅が広いという、一つの理由はここにあります。

 

 

【中島講師 プロフィール】
94年7月外務I種最終合格。国家I種経済職も1次合格していたが、外務I種合格により辞退。
外務省は4年勤務、アラビア語研修を命ぜられ、中近東第1課、エジプト大使館に勤務。諸事情により任期途中で日本に戻り人事課等に勤務。
2001年より公務員試験講師。延べ2400回の授業、24000人の学生に講義。
主な著作:「受験ジャーナル直前対策ブック 暗記科目の語呂合わせカード」、「語呂合わせで急所をチェック 公務員試験」(文芸社)

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